秩父連山を水源とする横瀬川は渓流釣りで知られる清流である。あたり一帯は観光農園も点在しており、いわばフルーツバレーの趣もある。
札所観音巡り第3回は、武甲山に抱かれた横瀬町を貫く、そんな横瀬川の両岸に点在する7ヶ寺を巡歴した。
この季節、炎熱の陽のもとならば熱中症も懸念される。だが幸いにして、おりからの曇天で気温30度を下まわり、青空に映える秩父の山々を
みることはできなかったが、真夏の散策には願ってもない気象となった。
<写真1.今回の参加者全員>
西武秩父駅でわれらを迎えてくれたのは白装束に菅笠という遍路姿のKさん、秩父先達会の公認案内人である。山路をたどり、野づらを横ぎり、
のんびりと歩く。いわゆる江戸巡礼古道を行きたいというかねてからの希いもあって、あえてわれらと同年齢のKさんに先達をお願いすることに
なったのである。
<写真2.牧水の歌碑を説明する案内人Kさん>
アップダウンの激しい山道を風を感じながら歩いた。川辺の砂浜で水遊びに夢中のこどもたちを見て、かつての自分がそこにいると思った。
ぶどうやプラムの果樹園に群れる親子連れをちらと横目に、遍路のわれらはただひたすら歩いた。田圃のあいだの道、ふとみると稔りの秋を待つ
青い稲穂がゆれていた。野に咲く山百合や民家のかたわらに群生する百日草に眼を癒やされた。
<写真3.明智寺>
先頭に立ったのはメンバーのNさん、先達さえも追い越してつねに前を行く。「お客さんのほうでペースをつくってもらえる。ありがたい」と
微笑むKさんとともに、われらは汗の滲みたNさんのでかい背中を追っかけていった。
<写真4.西善寺に向かう>
巡礼の旅がより豊かになったのは、先達Kさんのわかりやすい解説によって知的好奇心をそそられたせいも多分にある。たとえば牧水の歌碑を
手がかりに、かつて秩父は銘仙の里だったことを再認識した。
札所7番法長寺の山門の左側にある「不許葷酒入山門」と刻まれた石標は意味深である。ようするに大蒜や葱など香りの強い野菜や肉魚と酒は修
行の妨げになるから持ち込み禁止だという話。焼肉や餃子で一杯飲んだアナタ、山門から入れませんよ、というのだ。もしかしたらメンバーのな
かにギョッとした御仁がいたかも…。さすがは禅寺らしい厳しい戒律と思いきや、だからこそ、逆に葷や酒は今も昔もそれほど魅力があり、実際
に寺では食されていたことの証ではないかという裏ヨミができてしまうのである。
<写真5.西善寺にて>
<写真6.寺坂の棚田風景>
<写真7.語歌堂>
<写真8.常楽寺>
完歩したあとは秩父神社ちかくの蕎麦どころで打ち上げ、汗をかいたぶんだけビールと地酒が心地よく臓腑にしみこんでいった。
陽が暮れた秩父の街、ほろ酔いのせいもあり、駅までの道筋が怪しくなった。しばし逡巡していると、たむろしていた中学生らしき少年のひとり
が「ぼくが案内します」と先に立ち、駅構内まで送り届けてくれた。巡礼の街らしく秩父にも、四国と同じように遍路を温かく迎える「お接待」の風
習があるようだ。そういえば6番卜雲寺では檀家の婦人がお茶とうめぼしでもてなしてくれた。道中あちこちに「巡礼の道」と手書きの札をぶらさげ
たり、道ばたに花を植えているのも、そういう心遣いからなのだろう。少年には、「お接待」の心がちゃんと受け継がれているとみた。そういう人と
人との交流は感謝の気持ち、信頼、思いやりの心を育み、ひいては「おもてなし」、奉仕の精神に通じてゆく。孫にひとしい少年に感謝しつつ、温かく
かれを見送るメンバーのあいだで、そんなほのぼのとしたやりとりがなされていた。(福本武久・記)
◇東京40会「心のやすらぎ・巡礼の旅」 第3回
・日 時 :2014年08月17日(日)11:00
・集合場所 :西武秩父駅
・天 候 :曇り
・参 加 者 :9人
・コ ー ス :御花畑駅⇒明智寺⇒西善寺⇒卜雲寺⇒(昼食)⇒法長寺⇒語歌寺⇒大慈寺⇒常楽寺⇒秩父駅(約12㎞)
写真 福本 武久 宮野 和佳
あとがき
今回より秩父先達会公認案内人Kさんのお出ましである。地図を頼りと言っても、ヘルプなしでは巡礼古道を(地図では欠落している場合が多い)
辿っての巡礼の旅は、放浪の旅となりかねない思いで正直不安ではあった。先達K さんとの事前打ち合わせでは、「本当に全て徒歩巡礼で心配ないか?」
くどいように念を押されたが、過去二回体験しているので… 「trust・me!」と答える他は無かった。尤も一回はジャンボタクシー利用ではあったが黙
していた。不安をよそに、Kさんも驚く健脚ぶり。縦長の箱根駅伝状態はある程度やむを得ないが予定をかなり前倒しのゴールとなった。
因みに万歩計は28000歩(約20km)を記録していたという。今回で計3回の折り返し点、行楽の秋に向けて皆様の参加を歓迎いたします。
(事務局:小川 彪)