安房国・鋸山日本寺漫遊記
今回の企画は温故知新の歴史散策です。
天候にもまずまず恵まれ、集合は千葉駅構内ホ―ム、乗継の電車は既に待機している手際よさ。
10名が2組に分かれゆったり座って安房国を目指します。
今回の漫遊記担当の小生は現役時代、房州の国と常陸の国を統括した経緯があり、
とりわけ安房を含めた南総は30年ぶりの探訪でもあり興味津津といったところです。
千葉県はご存じのように東京湾側の、未来型国際都市の顔、日本の原風景農村田園地帯の顔、
海洋に面した素朴な漁村の顔、そんな様々な顔の中にそれぞれの個性的な景勝地が点在している
変化に富んだ半島なのです。
内房線という湾岸沿いのローカル線で南下すること一時間強、安房南総浜金谷に到着です。
漁村の顔にフェリ-発着場、加えて芸術性に富んだ景勝地というロケ-ションは
南総では唯一恵まれたエリアと言ってよいでしょう。
足早に昼食会場に一目散「ピッツア ゴンゾ-」というピザ店にはほぼ一番乗りとなりました。
個性的なメニュ-をそろえたお店で、鋸山の房州石を使用した薪窒で焼き上げるそうです。
お薦め三品を注文し適当にシェア-することにしました。
改めて店内を見渡すと家族ずれや団体さんなどで50席ある半分ほどが埋まっています。
奇妙なのは天井にバケツが数個、間隔をあけて無造作にぶら下がっているではありませんか。
「余興で演奏用の打楽器の代りでは?」「何か芸術的暗示がある?」など憶測していましたが、
マスタ-に尋ねると「雨漏り対策です。」とシンプルな答え。
「早く修理しなくちゃ。」への返答は笑顔で「このままにしておきます。」
真意はどこにあるのか、忙しい時間帯になり残念ながら聞き漏らしてしまいました。
フッとため息交じりにメニュ-に眼をやると、季節限定でレンコン入りの
〝レンコリ-タ"という文字が目に入ります。
この分では薬用粉末を混入した〝メンソレ―タ"というメニュ-もありかも知れません。
さて注文の3品が時間差でテ-ブルに並びました。
何故かスパイスは蜂蜜のみがテ-ブルにポツリ。
何でもチ-ズたっぷりのクワトロフォルマッジには欠かせないとのこと。なる程良く合うものでした。
また、隣席の仲間の5人は月替わりのジネッジョ(自然薯)を食していました。
このオリジナリティー溢れるピザ店を後に、新商品のアイデアをそっと耳打ちしておいたので、
あのマスタ-ならやりかねないなあ...と一人ニヤニヤ鋸山ロ-プウェ-を目指します。
途中「ここが夕食会場ダヨ。」と言われ立ち止まり見上げましたが、
看板はラ-メン・餃子の店となっています。
世話人のチョッとしたシャレと思いながら本番を楽しみに、
ロ-プウェ-乗り場に到着しましたが思わぬ混雑ぶり。
幸い40人乗りとキャパはあり、30分足らずで乗車でき、
気にするほどの遅れなく日本寺を漫遊することが出来たのです。
房州の屋根ともよばれる名勝地鋸山-----、山そのものが全て寺の境内という巨大な「日本寺」、
頂に立つと30年以上前の思い出が鮮明によみがえってきます。
千葉に赴任し、先輩と引継ぎの合間に(と言っても引継ぎの一環として)同じ場所に立ち、
地政学的見地からか浦賀水道越しの富士山を眺めながら、
「これも仕事」といわれレクチャ-を受けたのです。
湾の左端が館山、右が通ってきた千葉方面、見えないが後ろが銚子、ズーと行くと常陸の国。
海峡を渡れば東海道相模国、あの灯台は日本初の洋式灯台「観音崎灯台」、
海幅最少距離は僅か6.5km。
昔は西からの移動は浦賀水道を経由し南総に渡るのが、物流・文化の流れ。
それ故南総を上総とよぶようになっている云々。
今日でも航路は名目上国道16号線における実質の海上区間をなしているので、横浜を出発とし、
神奈川~東京~埼玉~千葉と起点と終点が一致した日本で最初の国道ではあるのです。
古き良き時代のエピソードの一幕ですが、大局観に基づく申し送りのスケ-ルは大きいが、
参考になったのは最後のくだりのみ。
このような発想は小生一代で幕となり、今ではリタイア組一部の語り草となっているに過ぎません。
さて、本題の日本寺巡りは、山そのものが全て寺の境内という、
前述に負けないスケ-ル感で、すべてを網羅することは取材の限界を超えています。
幸い風景写真は豊富な様なので日本寺風景コ-ナ-として
コメント付きで収録し記憶に留めたいと思います。
特筆されるのは イ.石切あとの地獄のぞき ロ.百尺観音
ハ.石大仏 二.千五百羅漢といったところでしょうか。
(二.の羅漢は正確には1,553体の尊像が祀られていて、
禅師自ら良質の石材を求め各地の石山を訪ねたそうです。
石切り場にもかかわらず拘りが伝わってきます。)
古寺巡礼は、古人が眺めたのと変わらない絶景と静寂が一体となりパワ-をもらいます。
きれいにお膳立てされた観光地と違った体験ができます。
ご朱印所があったのはこのためと思っていましたが、
良く調べますと安房国札観音三十四ケ所巡りの第八番札所であることを知りました。
一番は館山にあり鎌倉時代から始まったとか…。
(そういえば本年から四国八十八ヶ所巡礼にチャレンジの方が今回参加されています。
単独で徒歩チャレンジと聞いています。札所間が100km以上の難所もあるとのことですが、
来年には快挙の報が聞けるのではないかと楽しみです。)
下山後は夕食の前に金谷美術館により体調を整えます。
タイミング良く南房総ゆかりの作家たちによる「愛おしい自然展」の初日に訪れることになりました。
地元のボランティアと思われる方々の熱意で運営されているのには心温まります。
出品数は60点余にも及び、名のある作者の作品にもお目にかかれる内容です。
地元の鈴木さんという方の善意で完成したと聞きました。
(因みに鈴木姓は全国で175万を数え、全国2位だそうです。何の関係もありませんが…。)
さて、早めの時間ではありますが時節柄夕暮れの訪れともなると、
新鮮な海の幸にありつきたいものです。
二手に分かれたため手違いで道に迷ってしまいましたが、無事指示されたお店に辿りつきました。
あろうことか「ここが夕食会場ダヨ」のあの店です。
正面突破ではなく横の細い路地から居間に入るという仕掛けになっていました。
気になって最初に確認したところ、皆さんの浮かぬ顔が目に入り
「まさか!!」と思いテ-ブルに目をやると、並べられた料理にラ-メンはありませんでした。
先着人はつい食指が動くのを、お預けの状態でご不満なのでしょう。
全員無事揃って改めての乾杯です。
大皿3枚~4枚に盛られた鮮魚は色鮮やかな3品、ロ-カル駅にありがちな、
ついでに何でもアリという感じのお店ではなく、地魚専門の盛り付けなのです。
気になる経緯を"はまべの"女将に質すと、2年前開業の際にお店に無駄なお金は使わずに
のんびり成り行きで今日まできましたとのこと。
今でも特に予約が無ければ4時には閉店するそうです。
全て大振りに盛り付けられた白身魚に混じって、一際大胆に盛り付けられた肉厚のアジは
この地区でしか水揚げされない黄金アジなのでしょう、
臭みもなくコリコリとした食感に、地酒も結構準備されていて至福のひと時です。
改まってアジフライを追加して3尾づつ出される揚げたてのそれは、
レモンをかければジュッと声を出しそうなアツアツなのです。
サクッと口に入れもぐもぐ、コロッケ程の厚みがあり大きさも倍ほどあるフライでも
健啖家には3口ほどで消えてしまうありさまです。
締めのお茶漬けは女将推薦のアジのナメロウ。
通常の料理店では臭み消しにショウガや味噌で味付けするところを殆ど添加物なく、
未体験の美味しさに一同大満足でした。
気になる予算と言えば、全ての入場料、ロ-プウェ-運賃など入れて片手程。
要するに久し振りに友人が上京し、大勝軒のラ-メンが食べたいというので
大盛りとチャ-シュ-のトッピングとビ-ルを一本追加、
洒落たカフェでコ-ヒ-を御馳走した程度の食事代と言えるでしょう。
なる程、神奈川方面からフェリ-で渡りこの地の民宿などで食事を楽しむコ-スも納得できます。
(参加メンバ-のファミリ-にはヨットで訪れる方もいらっしゃる様です。)
順調にスケジュ-ルも終え19時過ぎの電車で帰路に向かいます。
遅くなるほど下り坂の天候が気になるところ、程なく車内アナウンスがあったのは
千葉方面からの対向電車がイノシシと衝突し、
安全確認のため遅れますとの意表をつく内容でした。
おかげで最終コーナーでは雨に遭遇しましたが、漫遊記に相応しい思い出と割り切りましょう。
そうだ!房州の国には野生動物保護区の顔があったのを忘れていました。
寄稿文:T.O
写真編集:Y .N